わが国にも1951年に60Co大量照射器設計小委員会が発足し、1953年9月に172Ciの遠隔照射用60Coが輸入され、国立東京第1、第2病院、東大、阪大、九大、慈大、慶大の7個所に配分され、治療が開始された。当時の線源はコイン形とよばれ比放射能が低く、量も20Ci前後で、線源から20cmで8R/分程度の出力であったが、226Ra2gのテレキュリー(SSD6cm、3R/分)に比べれば画期的なものであった。しかし、SSDが短いために深部量百分率は殆ど相違しなかったし、照準関係の設備も遮蔽も不充分であった。X線と60Coの得失が盛んに議論されて、Flexibilityと操作者の被爆線量が特に問題となった。遮蔽が不充分であったのは、当時は60Coγ線の遮蔽に関するデータがなかったからである。
 図17はT形と称するわが国で最初に製作された装置で、国立東京第1病院と第2病院に設置された。この他にU形が同時に製作された。いずれもスタンド形である。
 図18は1954年4月に癌研に設置されたIII形と称するテレコバルト装置で、U形の改良形である。この装置には、距離を一定とするためのプラスティックの照射筒(X線の照射筒をまねたものであるが、60Coの場合には皮膚線量が増大するから好ましくない)がついており、二次電子ろ過板がアルミニウム製(原子番号中位の物質がよい)で、絞りは交換形であった。(図19)又、必要線量を照射しても、反応が小さいことが、当時の放射線科部長であった塚本先生から指摘され、鏡を用いて照射時の線源の位置を観察したところ、完全に線源が露出していないことが判ったりした。癌研にはその後、図20に示すスタンド形の装置が設置された。又、島津、日立においても図21および図22に示すスタンド形が製作された。
 回転形の照射器は1954年に試作されているが、本格的な回転照射が始まるのは、1957年3月に1000Ciの60Coが癌研に納入されてからである。
図23は東芝玉川工場において、癌研との共同開発である回転照射器のヘッドの部分を見学しているところであり、図24は癌研に設置されたところである。この装置は操作者の被曝線量を減少させるために、図25に示すように、照射位置から2m手前で患者をセットし、操作室から遠隔操作で自動的に患者を送りこんで照射できる。又ヘッドが前後に20°回転できるこの方式は島津でも採用された(図26)。
 この装置は回転中に照射ヘッドが患者にふれることを恐れて、回転中心と絞りの間を大きくとったことと、線源が2cm直径のウェファ形であったため、回転中心における幾何学的半影が4.3cmにもなり問題があった。半影除去のために、本絞りの先端に図24に見えるような補助絞りをつけたが、それ以後、各種の装置に延長絞りがつくようになった。
 頭頸部の照射を容易にするために照射ヘッドを小形にし、かつ操作者の被曝線量を減らす目的で、線源格納器と照射器を別にした線源気送装置(図2728(h))が1959年に試作された。線源の往復運動の間にカプセルが変形して途中にひっかかったり、カプセルが破損して中の60Co線源が漏出する事件が起きた。この漏出を防止するために1959年11月から線源容器は二重溶封となった。
 この他、照射野の指示値が、幾何学的本影であったり、幾何学的照射野であったりして、統一のないことが問題となったり、線源の公称放射能と出力の関係が計算値と著しく相違するという議論が出たりしたが、現在ではこれらは解決している。
 又、直線加速器が輸入されて、その装置の照準器具あるいは機械的精度等がよいことに刺激されて、テレコバルト装置のそれらも次第によくなってきた。わが国のテレコバルト装置の設置台数も年々増加して、現在では約550台と推定されている。(図29)
しかし、放射性同位元素は常時放射線を放出しているという欠点があり、そのために線源の輸送法が厳しくなって、線源を交換する費用を含めると、設置費と維持費の合計は直線加速器とあまり相違しないといわれ、世界的に、テレコバルトを直線加速器に替える傾向がでてきている。

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図17.1953年にはじめて治療に用いられたテレコバルト装置

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図18.1954年4月に癌研に設置されたテレコバルト装置

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図19.III形用の交換形絞り、アルミニウム製フィルタおよびプラスチック製の照射筒

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図20.癌研で用いていたスタンド形のテレコバルト装置および東芝RI-101形

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図21. スタンド形テレコバルト装置 (島津ST-2000、1956年)

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図22. スタンド形テレコバルト装置 (日立TI-600C、1959年)

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図23.東芝玉川工場にてコバルト60回転照射装置の見学

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図24.1957年3月より治療をはじめた1000Ciのコバルト60回転照射装置

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図25.東芝RI-107形のヘッドの前後方向への回転を示す図および患者を回転中心の位置から2m離れた場所でセットする様子を示す図

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図26.二重回転形のテレコバルト装置(島津RT-2000、1957年)

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図27.気送式テレコバルト装置(東芝RI-127、改良後RI-148)

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図28.放射性同位元素を用いた治療装置の各種シャッタ機構略図