私とCT

徳島大学名誉教授
西谷 弘

1970年7月31日 学生運動によるストライキの影響で4ヵ月遅れの九州大学医学部卒業。九州大学医学部附属病院放射線科に研修医として入局。

回転断層撮影装置(東芝)
 入局した当時、九州大学医学部附属病院には、高橋信次名古屋大学教授が開発されたアナログCTと言える回転断層撮影装置が1962年から設置されていた。臥位で身体横断画像が撮影できる巨大な装置1)で、放射線治療計画用の回転横断断層撮影に利用されていた。放射線科医は撮影された横断面を参考にした線量分布図に基づき治療計画を行い、受け持ち患者の放射線治療に当たっていた2)

1971年~1972年 広島赤十字病院放射線科医員
1972年~1974年 広島原爆傷害調査委員会(Atomic Bomb Casualty Commision ABCC)放射線部研究員
1974年~1977年 米国フィラデルフィア ペンシルバニア大学病院 放射線科レジデント

 デジタル医用画像にはじめて出会ったのは、1974年~1977年のペンシルバニア大学病院レジデント留学時代であった。

EMI 頭部用CTスキャナー(CT-1000)■ 
 1972年にHounsfieldらが開発した頭部用CTがEMI社から発売された。あっという間に世界中に設置された。ペンシルバニア大学病院でもEMI頭部用CT装置が導入され、頭蓋内疾患の診断に利用が始まったところであった。X線管球と検出器は患者の頭を挟んで対向するように設置されており、ペンシルビーム状のX線で端から端までスキャンしたのち、1°刻み回転しながらスキャンを繰り返し、180°にわたって走査するものであった。撮像および画像処理に長時間かかるため、それほど沢山の症例に施行されているようではなかった。読影にあたっても、異常所見がかすかな場合には、動きなどのアーチファクトとの区別が困難なことから、前後のスライスに連続して病変が同定可能なときのみ異常と読影するように指導されたことを思い出す。

Mark IV SPECT
 そのX線CTスキャナーが入っていた部屋の隣の部屋に、Mark IVという単光子放射断層撮影(SPECT)装置が鎮座していた。核医学部門のDavid E. Kuhl教授らの研究チームが1960年代から開発を続けていたものである。32個の検出器が体の周りを回転してSPECT像を得るというもので、世界に先駆けた研究の産物であった。逆投影による計測データの再構成法はX線CTでも利用された。

   
Mark IV system for Radionuclide Computed Tomography(RCT)  転移性脳腫瘍に対するEMIscannerによるX線CT画像とRCT(99mTcO4)画像3)

Kuhl教授は、その当時からすでにMichael E. Phelps やEdward J. Hoffmanという若手の研究者とともに陽電子放射断層撮影(PET)の開発研究にも着手していた。ペンシルバニア大学の放射線科レジデント向けの核医学講義は充実しており、核医学の大家のジョンホプキンス大学Henry Wagner教授のほか、後にPETの開発で名を成すこの二人の若い研究者などからも教育を受けた。
 そのころ、横川電気の柴田文啓部長が、GE社CTの日本への導入について契約成立直後に立ち寄られお会いした。

1977年~1988年 九州大学病院放射線科助手~放射線部助教授・副部長

EMI CT-1000
 日本に帰ってみると、脳外科医養成目的にて自賠責益金を使用したEMI scannerが東芝メディカルから多数導入されており、1976年に九州大学病院にもEMI CT-1000が入っていた。1978年にはEMI CT-1010へ改造された。

九大病院に初めて設置されたCT装置(1976年)4)

国産日立頭部CT
 そのうちに、日立が国産初の頭部CTスキャナーを開発し、地域医療に携わる関連病院にも続々とCTが導入されるようになった。画像処理に5分程度かかり、X線管球もすぐ熱くなり、つぎつぎと症例が来ると管球が冷えるまで検査を待つようなこともあった。

東芝TCT-60Aなど第3世代CT
 全身用CTスキャナーとして最も普及したものは、撮影領域をカバーするファンビームX線が用いられ、X線源に対向する円弧状の多数の検出器素子で透過X線を計測する方式で、X線管と検出器が一体となって患者の周りを回転し一定角度毎に投影データを得るローテートローテート方式であった。第三世代と呼ばれる装置である。九大病院では1979年にTCT-60Aが導入された。1枚の画像の撮影は、高速な撮影が可能であるが、連続したスライスの撮影では1枚毎にテーブルを停止しX線管球が元の位置に戻ったあとテーブルをずらす必要があった。呼吸を停止できない場合にはスライス間で画像のずれが起こり、しばしば読影が困難となった。

TCT60A/60(徳島大学病院1986年3月)6)

全身用CTスキャナー Pfizer/AS&E5)
 さらに第4世代と呼称された全身用CTも1979年九州大学病院に導入された。この装置は最外層全周に約1000個の固定検出器を備え、回転する管球が検出器よりも内側にあったが、被写体から検出器までの距離が遠く、そのためか画質は悪かった印象がある。

東芝TCT900S
 頭部CTの更新で、1985年度に全身用CTが認められることになった。仕様策定作業に入ったが、そのときに東芝が管球が連続回転するCTを開発し薬事承認待ちという情報が入っていた。仕様策定作業中に承認がでるかどうか気を揉んだが、仕様策定委員会を閉じる直前に薬事承認となり、TCT900Sを導入することができた。後に徳島大学に赴任したところ、同じ1986年3月に導入されたCTがTCT60Aであった。チャンスの神様は前髪だけが生えていると言われている。上手につかむ必要があることを痛感した。
 撮影中、連続したX線管球回転により高速の画像収集が可能となり、呼吸停止中に撮影することでアーチファクトの少ない画像となり、また三次元画像情報の収集が可能となった。それまでのCTと比べると天と地の違いがあった。
 1990年からは、撮影中のテーブル連続移動も可能となり、ヘリカルCTとして精度の高い三次元画像の収集が可能となった。

TCT900S/SUPER HELIX(徳島大学病院 1993年3月6)

1988年~2010年 徳島大学医学部放射線医学講座教授

三次元画像(シーメンス Magnetom H15とSomatom HiQ)
 1989年度の装置更新にMRIが対象となった。徳島大学医学部附属病院でのMRIの導入は初めてであり苦労したが、仕様作成にあたり、できるだけ最新のものをと思い、MRスペクトロスコピー、三次元画像変換、任意断層像観察、ナトリウムイメージングが可能なものを必須の要件とした。また、MRIで得られた三次元画像に組み合わせて観察可能な三次元画像再構成用X線CT装置もあわせて導入することとした。その結果シーメンス社製Magnetom H15とSomatom HiQが導入されることとなった。1mm厚のMRI矢状断像128枚をボリュームレンダリングにより三次元画像に変換して表現した。当時としては初めて見る三次元画像で感動した。

    
Magnetom H15(左)と Somatom HiQ(右) 徳島大学病院 1990年3月6)

 この時、MRIとCTの三次元画像のフュージョンを実現するために、Graphics Supercomputer TITAN2000が導入された。AVS(Application Visualization System)に基づいたシステムで、当時開発されたDr. Viewを用いて三次元画像を作成することができた。

   
脳腫瘍症例におけるMRIとCTフュージョン画像8)  

三次元立体模型の作成
 三次元画像情報が手に入るようになって、その臨床的利用の具体例として、立体模型作成の研究を行った。外科医にとっては、実物大模型があれば、診療に役立つであろうと推測したからであった。三次元画像からコンピュータ制御によるウレタンフォーム塊研削により作成した脳腫瘍と頭蓋骨の立体模型は脳外科医から術前シミュレーションに役立つという評価をもらった。
 また、徳島大学工学部仁木登教授の研究室と共同で、大阪府立産業技術総合研究所で開発されたレーザー光で硬化する光硬化性液体プラスチック樹脂を用いてウィリス輪を中心とする脳血管の実物立体模型の作製研究を行った。脳動脈瘤などを立体的に容易に把握できることが実証でき、工学部大学院生の卒業研究となった。その後光硬化プラスチック樹脂による実物大立体模型は実用化され、現在形成外科など臨床の領域で広く利用されている。

   
三次元立体模型 左はウレタンフォーム塊コンピュータ制御下研削による脳腫瘍例7)、右は液体プラスチック樹脂によるウイルス輪例8)

日立メディコ コーンビームCT
 1997年のIVR-CT(W3000)の導入時に日立メディコが作成した外見はCT装置のような形状で、ガントリー内でイメージインテンシファイヤが回転する回転DSA装置(SF-V100)を合わせて導入したが、これを用いてコーンビームCT三次元画像を作成した。1回転5秒かかり、画像処理に8分もかかるというものであったが、骨格のように動かないものでは、良好な画像が得られることを確認し報告した。この装置は現在歯科用のシステムとして実用化されている。

   

三次元画像の全病院への展開
 徳島大学病院は2004年4月より、完全フィルムレス病院となっている。フィルムレス導入にあたり、16列マルチスライスCTを3台導入し、全ての症例で1㎜厚の画像を収集するようにした。放射線部内のみならず、院内全ての場所で、三次元CT画像や三次元MRI画像を利用できるようにするために、サーバーサイドで画像処理を行い、処理済画像を迅速に端末に送るストリーミング技術を利用したテラリコン社のAQ-NETサーバーシステムを導入した。これにより、院内500台の端末から、あたかも自分の端末で画像処理をするような感覚で三次元画像処理が行えるようになった。手術を行う外科系診療各科からは術前シミュレーションが容易になったと評価をいただいた。

サイクロトロンとPET/CT Aquiduo
2005年に院内サイクロトロン(住友重機工業社製CYPRIS KM12S)と2台のPET/CTカメラAquiDuoを導入した。

2010年~ つるぎ町立半田病院顧問(放射線科)

■その後の展開■

CT多列化の進歩
CTエネルギー差分法
逐次近似法利用による画質保持しながら線量軽減
超高分解能CT

参照先あるいは参考文献

1)臥位X線回転撮影装置画像 http://www.ms.tohoku.ac.jp/history/
2)田中 良明 断層影像の放射線治療に果たす役割 -回転横断撮影と原体照射から画像誘導放射線治療(IGRT)へ- 断層影像研究会雑誌 35:1pp.50-57,2008   http://www.jat-jrs.jp/journal/35-1/35-1-5057.pdf
3)David E. Kuhl et al. The Mark IV System for Radionuclide Computed Tomography of the Brain. Radiology 121:405-413, November 1976
4)九州大学医学部百年史 p.606 2004年3月1日 
5)AS&E History http://www.as-e.com/company/history/
6)徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部放射線科学分野開講60周年記念誌 2010年3月27日
7)西谷 弘、他 医療における三次元画像の利用 臨床画像 Vol.11 No.3 p6-12, 1995
8)西谷 弘、他 3Dイメージング KARKINOS Vol.4 No.11 1385-1388 1991