Vol.51 No.10 (1996)

多目的オールディジタルX線診断装置 MAX-1000Aシステム
MAX-1000A Multipurpose All-Digital X-Ray Diagnostic System

浅野  淳
   
中村 雅人
   
長谷川 慎二
K.Asano
   
M.Nakamura
   
S.Hasaegawa


最近の臨床動向の変化と臨床技術の進歩に伴い, X線透視撮影装置には,より多様な臨床に使えるように多目的な機能が求められている。当社では,このような臨床ニーズにこたえるため多目的オールディジタルX線診断装置MAX-1000Aシステムを開発した。このシステムは,起倒する寝台にCアーム型の保持ユニットを組み合わせたX線寝台装置を中心に構成され,Cアームの動きによってX線の透過方向を任意に設定できる機能や,エンドレス天板ローリング機能などにより,上部および下部消化管の検査から非血管系のIVR(Interventional Radiology),腹部や下肢の血管系の造影検査やIVRまで多用途に用いることが可能である。

Today,X-ray R/F systems are required to provide new clinical capabilities and a wider range of applications due to recent changes in the field of radiology and the development of new diagnostic techniques.
Toshiba has developed a multipurpose all-digital X-ray diagnostic system,the MAX-1000A,to meet these clinical demands. The MAX-1000A system comprises a tilting table combined with a C-arm,a real-time digital processor,a high-frequency-inverter X-ray generator,and a number of peripheral units.
This system can be employed for a wide range of clinical applications including gastrointestinal studies,non-vascular interventional radiology procedures,and abdominal and peripheral angiographic examinations.Since the table top rotates continuously around the body axis,the upper and lower digestive tract can be examined quickly and efficiently.


1 まえがき

1895年12月にレントゲン博士がX線を発見してから今年で101年目を迎えた。発見の翌年からX線が医療に用いられるようになったと聞くが,この100年間に医療分野でのX線の利用価値は拡大の一途をたどってきた。その背景には医療技術の進歩とテクノロジーの発達があり,近年においても両者の発展はとどまることなく続いている。この最新の医療技術とテクノロジーを取り入れて,従来とは形態の異なる新しいコンセプトのX線診断装置を開発したので,その技術的な特長と臨床上の有用性を中心に紹介する。


2 開発の背景

わが国では,代表的な成人病である悪性新生物(いわゆるがん)の中でも胃がんの発生率が高いが,故白壁彦夫博士らが開発したX線二重造影法を用いた国を挙げての早期発見の努力により,がん全体の中で胃がんの占める割合は減りつつある。その一方で,食生活の様式が欧米に似てくるに伴って大腸がんが増えており,大腸全体を効率よくX線二重造影法で観察する診断装置のニーズが高まっている。
また,最近の医療技術の進歩で特筆されるのは,血管にカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し,X線透視で観察しながら血管の狭窄(さく)などを治療するIVRの発達である。この手技により,外科的な手術を伴わないで治療が行える症例が増えており,患者の負担軽減に大きく寄与している。このIVRは,血管以外の臓器に対しても応用が広がっており,長い間診断装置として位置付けられてきたX線装置は,IVRの発達とともに治療支援装置としての性質も合わせもつことを要求されるようになってきている。
また,近年の電子技術の発達により,I.I. (Image Intensi-fier:光電子増倍管)で可視化されたX線像をディジタル化し,画像処理後モニタで観察したりディジタル保管することが可能になった。このため,X線像をX線フィルムに写して診断するというX線発見以来の診断方法が,フィルムのない(フィルムレス)診断に移行しつつある。
これらの動向に基づき,特に下部消化管診断を容易に行え,また非血管系のIVRなどの多目的応用も可能にした装置として,多目的オールディジタルX線診断装置MAX-1000Aシステム(図1)を開発した。


図1.多目的X線寝台装置 MAX-1000A  起倒式の寝台にCアーム型のX線管/I.I.保持ユニットを組み合わせた基本構造になっている。
MAX-1000A multipurpose diagnostic X-ray table


3 システムの構成

この多目的オールディジタルX線診断装置MAX-1000Aシステムは,次のような主要コンポーネントにより構成されている。
(1)多目的X線寝台装置 MAX-1000A
(2)高周波インバータ式X線高電圧装置 KXO-80M
(3)大容量小焦点X線管装置 DRX-6545D
(4)スーパアドバンストI.I.
(5)1,024×1,024マトリックス対応CCDテレビカメラ MTV-500A
(6)ディジタル画像処理装置 DDX-1000A
多目的X線寝台装置MAX-1000Aの外観を図1に,MAX-1OOOAとX線高電圧装置KXO-80Mの操作コンソール,およびディジタル画像処理装置DDX-1000Aの操作コンソールの外観を図2に示す。


図2.操作コンソール  X線寝台装置とX線高電圧装置の遠隔操作コンソール(右)と,ディジタル画像処理装置の操作コンソール(左)。
Operator console


4 特長と有用性

このシステムは,次の各項を目ざして開発した。
(1)上部消化管と大腸の検査が効率よく行える。
(2)血管系以外のIVR支援が十分に行える。
(3)専用装置を必要とする一部を除いた血管系IVRにも用いることができる。
(4)その他の多様な診断目的に用いることができる。
これらの目標を達成するために個々のコンポーネントはさまざまな機能をもっているが,X線高電圧装置KXO-80M,およびディジタル画像処理装置DDX-1000AとCCDテレビカメラMTV-500Aについての基本技術についてはすでに本誌で紹介されているので(文献(1)(2)参照),ここでは多目的X線寝台装置MAX-1000Aに焦点を当てて代表的な機能を紹介する。

4.1 Cアーム搭載起倒式寝台
X線検査では,診断する部位と目的に合わせて,被検者の向きと透過するX線の方向を自在に変えて診断を行っている。この装置では,消化管検査に必須(す)な起倒する寝台と,循環器診断装置に固有なCアーム型のX線管/I.I.保持ユニットを融合させた構造を基本として,全13軸の動作を可能にしており(図3),これらの動きを組み合わせることにより,さまざまな検査における多様な診断ポジションに対応することが可能になっている。
例えば,消化管の検査では診断したいところに造影剤のバリウムを流すために寝台の起倒を用いる。体表から針を穿(せん)刺する非血管系IVRでは,穿刺の位置と方向を確認するために正面とそれ以外の方向からの透視観察が可能である。血管系の造影検査やIVRでは,血管の走向に合わせて透視する方向を変えることができ,脊(せき)髄造影や肺の細胞診などでは,正面と側面からのX線像を得ることができる。また,起倒を行いながら血管系の診断を行えるため,下肢静脈造影のような重力を利用する検査を容易に行うことができる。


図3.MAX-1000Aの動作  多種多様なX線検査に対応できるように,13軸の動作を行えるようになっている。
Movements of MAX-1OOOA


4.2 エンドレス天板ローリング
体内を複雑に走行する大腸を効率よく検査するためには,前述の寝台起倒機能だけではなく,被検者の向きを自在に変えることが必要になる。この装置では,この日的のために,被検者を角度制限なく回転させるエンドレス天板ローリング機能(図4)をもたせている。
従来からローリング機能の付いた装置はあったが,回転角度に制限があったため,操作者はローリング角度の制限をつねに頭に入れて検査を進めなければならず,操作に熟練を要していた。また,ローリング機能の付いていない装置では,操作者の指示で被検者に体の向きを変えてもらわなければならず,検査に時間が掛かる一因であった。
このエンドレス天板ローリング機能により,バリウムの流れを操作者が自在に制御することが可能になり,効率よく診断することができる。また,高速に回転することで消化管内壁へのバリウム付着が良くなり,診断画質の向上にも寄与している。大腸の臨床写真を図5に示す。


図4.大腸検査  エンドレス天板ローリング機能を用いて,複雑に走行する大腸にバリウムを自在に流すことができる。
Endless table-top rolling in colon examination



図5.大腸の臨床写真  大腸のX線二重造影像の一例を示す。
X-ray double-contrast image of colon


4.3 X線菅装置の位置選択
X線管装置を患者の正面側に置くかあるいは背面に置くか,診断目的と検査効率に応じて選択したいというニーズはあったが,従来の起倒を伴う装置では構造上の制約によりどちらかに固定されていた。この装置では,構造と制御のくふうによってその切換えを簡単な操作でユーザが行えるようにしており,臨床用途に応じてもっとも適した状態で検査に臨むことができるため,検査の精度と効率の向上に寄与している。

4.4 I.I.トラッキング
画質のよいX線像を得るためには,X線の検出器であるI.I.をできるだけ被検者に近づけることが基本である。I.I.が被検者の正面側にある場合には操作者がその操作を行うが,被検者の背後にある場合には被検者とI.I.の問に天板があるため,つねにI.I.をできるだけ天板近くに寄せておく必要がある。しかしこの装置では,I.I.を保持するCアームの角度を自在に変えることができ,また天板の角度も自在に変えられるため,そのままでは天板とI.I.が干渉するか,あるいは装置を動かすたびに両者が干渉しないように注意しながら操作を行わなければならず,操作者が診断に集中できなくなってしまう。このため,この装置ではCアームを角度付けしたり天板ローリングを行う際には,I.I.が天板と干渉することなく天板近辺を自動追従するように制御している(この動作をI.I.トラッキングと呼んでいる)。I.I.トラッキングは,I.I.の位置にかかわる5軸の位置情報を基にI.I.の最適位置をリアルタイムに計算して自動追従動作をさせており,センシング技術,高速演算ハードウェア・ソフトウェア技術,およびサーボモータ制御技術の進歩によって実現されたものである。
大腸検査などで天板ローリングを多用する場合,I.I.トラッキング機能によってI.I.は天板および患者周辺の最適な位置に自動的に移動するので,操作者がI.I.の位置を注意して操作する必要がなく,スループットの向上と画質向上に貢献している。

4.5 干渉防止制御
病院の検査室という限られた空間の中で,図3に示したような多様な動きを行うため,検査室の広さによっては装置本体やCアーム,I.I.,X線管などが天井や壁と干渉を起こしてしまう。これを防ぐためにこの装置では,次のような干渉防止制御機能をもたせている。
検査室との干渉に関係する11軸の動作をモニタし,それぞれの位置情報からCアーム,I.I.,X線管などの数十か所の干渉ポイントの座標をリアルタイムに計算する。この座標情報から天井,床,壁との干渉の有無を計算して判別し,各動作を制御している。
この干渉防止制御は計算処理で実現しているため,装置を据え付ける際に各サイトの状況に応じて検査室の寸法を入力することにより,干渉が生じない範囲で最大限の動作を行うことができるようになっている。
この干渉防止制御機能により,操作者は装置の状態に気を取られることなく,診断や手技,被検者のケアに集中することができる。

4.6 オートポジショニング機能
X線検査では検査部位と目的に応じてX線の透過方向を変える必要があると述べたが,検査によっては最適な透過方向が決まっていることが多い。検査の途中で毎回その方向にCアーム角度を合わせるのは,検査に集中するうえで,また検査効率を上げるうえで煩雑である。このような場合に利用できるように,Cアームの角度を記憶させておき,再現させるオートポジショニング機能をこのシステムでは備えている。
記憶,再現させる操作は二つの方法で行うことができる。一つはCアームの角度付けを一度行ってその角度を記憶させる方法であり,検査に最適なCアーム角度を検査前にあらかじめ記憶させて検査中に再現させたり,検査中に一度角度付けしたポジションを記憶させておき,いったんそこから離れた後に再度元に戻る場合などに利用される。
もう一方は,過去の撮影画像に記憶された角度情報からCアーム角度を再現する方法である。術後の経過診断などで,同一被検者の以前の画像を参照しながらCアーム角度を再現して検査を行い,経過状況を把握したい場合などに利用できる機能である。

4.7 安全性
この装置では,X線管装置やI.I.が被検者の周りを動き,また被検者自身もローリングすることから,被検者の安全に対しては,もっとも重要な課題として取り組んだ。安全性確保のために配慮した主な機能を以下に述べる。
(1)I.I.前面とX線管装置の前面,およびCアーム周辺には,被検者との接触を検出して装置の動作を急停止するタッチセンサを設けた。
(2)Cアームの動きで操作者が挟まれることのないよう,危険区城には人体検出センサを設けた。
(3)モータ駆動系,CPU制御系,およびセンサ系それぞれに,故障を検出して装置を停止する自己診断機能を備えた。

5 あとがき

X線装置を取り巻く環境は,大きく変化してきている。最新の医療技術に合わせ,最新の装置技術を取り入れて開発した多目的オールディジタルX線診断装置MAX-1000Aシステムが,多目的の名のとおりX線の用途をさらに広げてくれるものと期待している。

文   献

(1) 木村 達,他:汎用インバータ式X線高電圧装置KXO-50G/80G,東芝レビュー,49,1,pp.51-54(1994)
(2) 中村 仁,他:ディジタルX線システムCC·DRシステム,東芝レビュー,49,2,pp.74-76(1994)


  浅野  淳 Kiyoshi Asano
那須工場医用機器第一技術部グループ長。
X線診断システムの開発に従事。
Nasu Works
 
  中村 雅人 Masato Nakamura
那須工場医用機器第一技術部主務。
X線診断システムの機械装置開発に従事。
Nasu Works
 
  長谷川 慎二 Shinji Hasegawa
那須工場医用機器第一技術部主務。
X線診断システムの制御装置開発に従事。
Nasu Works