Vol.49 No.2 (1994)
ディジタルX線システムCC・DRシステム
Dynamic Digital X-Ray System, CC·DR System
X線透視撮影システムの検査傾向の変化と検査部位の多様化に伴い,新しい臨床メリットをもち,かつ病院内総合情報システム化を推進できるディジタルX線システムが求められている。当社は,リアルタイム画像処理装置と100万画素CCD(電荷結合素子)テレビカメラを主構成としたディジタルX線システムCC・DRシステムを開発した。
このシステムでは,散乱線補正処理などのリアルタイム画像処理と高精細テレビカメラによる画像の高画質化,標準通信プロトコルによるネットワーク対応のほか,新しい臨床価値の動態診断を実現している。また,検査目的に合わせた自動処理ルーチンとオートフィルミングにより操作の煩雑さを防ぐとともにスループットの向上もねらっている。
In line with the marked progress of X-ray diagnostic techniques in the medical world, there has been increasing demand for the incorporation of new technology in the TV fluoroscopy system. In response to this situation, Toshiba has developed a new digital X-ray system called the CC·DR system offering various clinical merits. These new clinical merits include the capability for dynamic studies by recording fluoroscopic images, higher image quality due to real-time scatter-glare correction and the use of a high-resolution CCD TV camera, network capabilities for a hospital information system (HIS) and picture archiving and communication system (PACS), parallel processing, and auto-filming.
1 まえがき
X線透視撮影システムは,これまで上部消化管バリウム造影検査に使用されてきたが,内視鏡検査の増加と他臓器疾患の増加により,用途が多様化してきている。
また,血管造影検査における今日のディジタルフルオログラフィ装置の普及に代表されるように,医用画像診断装置のシステム化,さらにディジタルX線診断装置の要求が高まっている。
そのような背景のなかで, 「画像診断装置として従来のフィルムシステムにない臨床価値を提供する」, 「ディジタルX線診断装置として最高水準の画質を提供する」ことを基本に,消化管造影検査をはじめ,透視下の治療検査(Inter Ventional Radiography)支援などに威力を発揮するリアルタイム画像処理装置DDX-1000Aを中心としたディジタルX線システム CC・DRシステムを開発した。
2 システムの概要
CC・DRシステムの主な構成品は,リアルタイム画像処理装置DDX-1000A, 100万画素CCDカメラMTV-500A,インテリジェント自動露出制御方式X線透視撮影台Aシリーズ,インバータ方式X線高電圧装置KXO-80Nである。システムの外観を図1に示す。
CC・DRシステムは,従来のX線透視撮影システムに画像処理装置を追加することにより,ディジタル化による新しい臨床メリットを利用できるようになっている。
![]() 図1. CC・DRシステムの外観 従来のX線透視撮影台システムに画像処理装置を組み合わせたCC・DRシステムにより,ディジタル化による新しい診断価値を利用できる。 CC・DR system combined with TV fluoroscopic system offering new climica value
3 システムの技術的特長
CC-DRシステムとして,従来のフィルムシステムにない主要な機能を実現するための技術的な特長を以下に述べる。
3.1 CCDカメラ
このシステムで採用した100万画素CCDカメラには,従来の撮像管に比較して,小型,長寿命などの特長のほか,次のような画質メリットがある。
(1)変調度が高く,周辺部まで変調度の一様性が良い CCDは画素が独立し開口が矩形状のため,変調度の高域側での低下が比較的小さい。また,撮像管ではビーム電流の形状が画像周辺部で大きくなる傾向があり,変調度が低下しやすいが, CCDではこのような劣化要因がない。
(2)高輝度近傍の視認性が優れている X緑直射と体側部が同時に視野に入る場合など, X線消化管診断では高輝度部分に接する被写体を確認したいことがある。CCDは過大光量時,信号をクリップする機能があるのと同時に,画素が独立しているためフレアが小さいので,高輝度近傍を忠実に画像化する能力が高い。
(3)周辺部まで均一な画質が得られる CCDでは,画素位置が固定しているので,周辺部が暗くなるシェーデイングや画像ひずみは生じない。
そのほかにも,残像がない, SN比が良い,といったメリットがある。図2にシャープな撮影像をリアルタイム画像処理した画像を示す。
![]() 図2. 連続撮影像(食道) 残像のないCCDカメラとリアルタイム画像処理により,シャープな連続撮影像を提供できる。 CC・DR system offering higher image quality by CCD TV and realtime processing
3.2 リアルタイム画像処理
従来の装置は編集画像に対してだけ画像処理が可能であったが,このシステムでは,検査中の透視像にも通用できるように専用のハードウェアをもっている。各画像処理は,検査部位に応じて最適な値に設定されるので,検査中に検査者が設定する必要はない。処理には, (1)動画リカーシブフィルタ処理, (2)散乱線補正処理(図3), (3)オートウィンドウ処理,(4)ラストイメージホールド, (5)ネガ/ポジ反転処理, (6)アノテーション, (7)表示シャッタ, (8)階調処理, (9)空間フィルタ処理, (10)拡大処理, (11)分割表示, (12)回転処理,などがある。
![]() 図3. 散乱線補正処理 原画像に含まれる散乱線成分とベーリンググレア成分を除去し,コントラストの改善を図る。 Scatter-glare correction system
上の散乱線補正処理は,ディジタルフィルタにより実現した世界初の試みであり,撮影像に含まれる散乱練成分とベーリンググレア成分を除去し,コントラストの改善を図っている。
3.3 動態診断
従来の撮影像だけの読影では,より微細な病変の発見および機能的な診断ができないため,透視像を読影の場面に使用する動態診断が望まれていたが,画像検索の煩雑さにより普及していなかった。
このシステムでは,透視像をVTR,あるいはビデオディスクレコーダ(VDR)にアドレス管理しながら記録することにより,ジョグシャトルでの再生のほか,撮影像からの検索再生(撮影像を指定することにより,再生位置を自動検索する),マーク検索再生(透視中にマークを付けておき,そのマークを指定することにより,再生位置を自動検索する)が可能となり,検査中や読影中に観察したい部分を容易に再生できる。
3.4 被ばく線量の低減
X線検査の被ばくのほとんどを占める透視画像のノイズは,X線カンタム雑音である。このようなランダムに発生する画像ノイズに対して,真の画像情報は被写体が動かないかぎり定まった位置にあるため,複数画像の加算平均を行えばノイズ低減が可能である。このような処理のことを単純リカーシブフィルタ処理と呼ぶが,真の画像情報自体が動いているものに対しては原理的にあまり有効ではない。
この動態画像に対しては,画素ごとに画素値の変化量を調べ,その変化量に応じて加算係数を変えられるようにする必要がある。すなわち,動き検出による動態補正つきリカーシブフィルタ(動画リカーシブフィルタ)を実現することでさらに実際の透視画像に対して,ノイズ低減が可能になった。
ノイズ低減が可能になると,従来と同等な画質の透視像を作るために必要となるX線条件を下げることができ,全体として患者に対する被ばく線量が低減される。
さらに検査目的(撮影術式)に応じた(標準・低)線量モードと(単純・動画)リカーシブフィルタ処理を選択できるので,いっそうの被ばく低減と高画質な透視像が可能である。
3.5 簡単な操作性
ユーザフレンドリな操作はタッチパネルで簡単に行えるが,通常のX線透視撮影検査においては自動処理ルーチンを主に使用する。すなわち,検査者の操作の流れは次のようになる。
(1)検査前の準備 透視画像記録を行う場合, VTRテープかVDRメディアのいずれかの媒体を装置に装着する。撮影画像の記録を行う場合,光磁気ディスク(MO)を装置に装着する。
(2)患者の指定 あらかじめ入力された患者情報は患者リストとして表示されるので,この中から検査する対象患者をワンタッチで選択する。
(3)検査中の操作 従来のX線透視撮影台システムと同じ操作で, X線透視撮影が行える。必要に応じて,ディジタルラジオグラフィ(DR)撮影とフィルム撮影,透視記録のオンとオフ,撮影術式のワンショットと連続の切換えをワンタッチでできる。
自動処理ルーチンは,検査部位と検査目的に合わせて登録する透視と撮影収集の条件,画像処理方法,イメージャ出力方法などの設定によりなっている。
この自動処理ルーチンにより透視像と撮影像はつねに見やすく,撮影像は自動的にイメージャへ出力できるので,検査者は従来のX線透視撮影台システムと同じ操作だけでよい。
3.6 システム化
CC・DRシステム化の設計においては,病院内の運用法に無理のない設計を前提とする。すなわち,システム化のためによけいな手間や遅延がないように設計する必要がある。
システム化のキー技術であるネットワークは,イーサネット(注1), TCP/IP(注2), FTP (File Transfer Protocol)を使用し,医用機器業界で定めたACR (American College of Radiology) /NEMA (National Electrical Manufactures Association)標準フォーマットに準拠したデータフォーマットを採用したため,標準のネットワークシステムを構築できる。
画像情報のシステム化の例として,医用画像保管通信システム(PACS : Picture Archiving and Communication Systern)との接続により,医用画像データの集中管理(画像データへのアクセスの容易性,データの劣化,散逸の防止),および省ファイルスペース化が実現できる。
システム化の別の側面は,病院情報システム(HIS: Hospital Information System)との接続により,伝票書き業務の効率化(正確化,迅速化,二重処理を省くこと)を目ざすことである。
病院システムとの接続はパソコンを介してRS-232Cで病院個々の要求に対応できるような構成とした。パソコンから画像処理装置への情報伝達は共通フォーマット・伝送手順を採用している。すなわち,病院情報システムから発行される検査オーダは,パソコンで受けて,検査結果情報(使用フィルム数など)の自動送信により,会計業務の自動化を推し進められる(図4)。
![]() 図4. 総合病院情報システムとの接続 HISとのテキスト情報およびPACSとの画像情報を標準通信手段により,画像処理装置との情報交換を行う。 Configuration of CC・DR system connected with HIS and PACS
4 あとがき
X線透視撮影台システムのディジタル化においては,従来システムより診断能を劣化させないとともに新しい臨床価値の提供を要求されている。
われわれは,第一段階として,リアルタイム画像処理装置DDX-1000Aを主体としたCC・DRシステムを開発した。新しい臨床価値としての動態診断の普及とともにディジタル化のメリットを最大限に生かしたシステムへと展開していきたい。
(注1)イーサネットは,米国ゼロックス社の登録商標。 (注2)TCP/IPは,米国国防総省が開発したプロトコル。 |