- 超音波断層像に大きなインパクトをもたらしたのは、武蔵工業大学教授の井出正男による諧調性表示超音波診断装置の開発である(1967年)。
- 初期の超音波診断装置は、画像の諧調性が乏しく、体内からのエコーを明瞭に表示することができなかった。これは診断装置の受信部の増幅器と表示部のCRTなどのダイナミックレンジが狭く、1枚の画像に広範な振幅を持つエコーを取り込めなかったからである。このため1つの部位についても受信部の感度を変えながら何枚もの画像を作って診断しなければならなかった。
- 井出らはこの難問を「諧調性(グレースケール)断層法」という新しい方法で見事解決した。対数増幅器を使い、表示部に諧調特性の良好なCRTを用いて、広範な振幅のエコーを持った画像として表示するもので、振幅表示能力を向上させた世界初めての技術である(左写真)。
- 和賀井らが乳腺の断層像を米国超音波医学会で発表したころ、分解能が十分でなかったため、Kossoffらから画がますますぼけて見える、との指摘を受けた。しかし、この諧調性を向上するという研究の方向は正しく、諧調性とともに分解能に優れた断層像を1973年にKossoffらが「Gray Scale Tom ography」として発表した。井出らの方式は諧調性表示超音波診断装置の基礎となり、日本はもとより世界の超音波医学やその後の診断装置の発展に大きく貢献した。また同法は画像記録にも有用で、現在ほとんどの超音波診断装置は同方式を採用している。
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CRTの諧調性(グレースケール)と心臓からのエコーレベル