1925年にIsingは電子加速用進行波直線加速器の理論を発表したが、Fryらは1947年に戦時中発達したレーダ用のマイクロ波を用いて、電子を加速することに成功した。1952年には世界最初の医療用直線加速器(Linear
accelerator,Linacと略し、リナック、ライナックあるいはリニアックとよばれた)がロンドンのHammersmith病院に設置された。図55に直線加速器の原理図、図56に医療用直線加速器の1号機を示す。これは8MeVであったが、その後4MeVの装置が次々と製作されて、英国の主な治療センターに設置された。米国でも1946年頃から直線加速器の開発研究が進められ、1960年には1000MeVの高エネルギーが得られているが、医療用には1955年に5MeV(Stanford)と50MeV(Argonne癌研、電子線専用、図72)が設置された。
わが国では、1955年に東京教育大学物理学教室の三輪教授(元癌研物理部長)によって直線加速器が紹介されているが、実際に設置されるのは1963年になってからである。すなわち、癌研(英国Mullard、4.3MeV、図57)、国立がんセンター(米国Varian、6MeV、図58)及び放医研(英国Vickers
Armstrong、6MeV、図59)にそれぞれの異なった型の直線加速器が輸入され、1964年から本格的な治療が開始された。いずれもマグネトロンからのマイクロ波(進行波)で電子を加速しているが、放医研のものはX-bandとよばれる3cmの波長を、他はS-bandと呼ばれる10cmの波長を用いていた。X-bandを用いれば加速管を短くできることから新しい装置として期待されたが、その後発展しなかった。Mullardの装置は電波を一部帰還して使用しているので、他の型の加速器で使えなくなったマグネトロンでも、X線を出すことができるという利点があるが、加速管が垂直形であるため、天井が高くなり、又360度回転ができない欠点がある。Varianの装置はその欠点を改良して、加速管を水平形とし、電子ビームを90度偏向して装置の高さを低くした。又、Mullardの装置はターゲットの位置を動かして、電子線とX線の切換を行うが、Varianの装置は図60に示すように、ターゲットを動かさずに、電子ビームの偏向の度合いを変えて電子線とX線を切換えている。この機構は焦点の位置が変動する原因となり、線量率と平坦度を著しく不安定にしていた。
日本電気はVarianと技術提携して6Mevの純国産1号機(愛知がんセンターに納入)を1965年に製作し、三菱電機でも1966年に6MeVの装置(国立金沢病院)を、東芝は、1967年に13MeVの装置(久留米大)を開発した。日本電気と東芝は水平形の加速管で電子ビームを90度偏向、三菱は垂直形で180度偏向方式であった。その後、小型の垂直形加速管(定在波)を用いた4MeVの装置、水平形加速管で270度アクロマチック偏向方式(図62)の装置が出現した。270度偏向方式は90度偏向方式に比べて安定で、対称性のよいビームが得られる。
わが国における直線加速器の設置台数の年次推移を図63に、癌研に設置された東芝の13MeVの直線加速器を図64に、東芝の4MeVの装置を図65に示す。
直線加速器の長所は、(1)出力が大きい(1mで5Gy/分)、(2)焦点が小さい(2〜5mmφ)ことである。この結果、短時間照射が可能で患者の動きが少ない。くさびフィルタを有効に使用できる。小照射野から大照射野(1mにおいて0〜40×40cm2)まで半影の小さい照射野がとれる。絞りと表面間距離を大きくとれるから、遮蔽ブロックや酸素チェンバを用いて照射しても皮膚線量を小さくできる。この酸素チェンバによる治療法は一時流行したが、効果に疑問があった上に、酸素室内での爆発事故があったためにすたれてしまった。図66に酸素チェンバを示す。
直線加速器の欠点として、(1)コバルトと違って出力が変動し易い。(2)平坦度が変動する。(3)故障が多いなどがあげられ、故障対策として2台の加速器を用意した方がよいとまでいわれたが、現在ではこれらの欠点は改良された。
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図55.直線加速器の原理図
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図56.1952年にHammersmith病院に設置された世界最初の医療用直線加速器
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図57.1963年に癌研に設置されたMullardの4.3MeV直線加速器。
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図58.国立がんセンターに設置されたVarianの6MeV直線加速器
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図59.放医研に設置されたものと同型の Vickers
Armstrong 6MeV直線加速器(Farmer)
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図60.医療用直線加速器の照射ヘッド
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図62.直線加速器における電子ビームの輸送方式
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図63.わが国における直線加速器の設置台数の年次推移
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図64.1971年に癌研に設置された東芝の13MeV直線加速器(LMR-13)
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図65.東芝の4Mev直線加速器(LMR-4)
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図66.直線加速器の下に設置された酸素チェンバ(国立がんセンター)