X線けい光増倍管
The X-Ray Image Intensifier
Through the investigation since 1954, several kinds of Toshiba X-ray image intensifies have been developed : M7018, M7027A and M7029 with the input screen diameters of 5in., 7in. and 9in. respectively for the conventional fluoroscopy and TV fluoroscopy. These tubes produce X-ray images having the brightness reaching 1,800 to 2,500 times those on the conventional fluorescent screen, rendering possible the image observation in a light room; and in addition it reduces the exposure dose. It also makes feasible the simultaneous observation by many persons through TV equipment. It may also be used for magnifying images by means of electric zooming.
[1] 緒言
医療用,工業用の分野におけるX線検査に対して従来X線写真および透視による方法が行なわれてきたが,特にX線像の透視はけい光板上の像の輝度が低いため半暗室で目の暗順応を行なう必要があり,さらに細部の観察あるいは厚い被写体にはX線量を増加しなければならない。透視におけるX線被ばく量の低減と観察を容易にするためにX線像の輝度を向上させる目的で種々の方式が開発され,その一方式としてX線けい光増倍管が用いられるようになった。X線けい光増倍管を使った場合,従来のけい光板の約1,000〜3,000倍の輝度のX線像が得られるためにX線被ばく量の低減と輝度の増加に伴う識別能の向上による適確な診断,検査が可能となり,さらにX線映画,あるいはイメージオルシコン,ビジコンとの組合せによりX線TV装置に利用できる。
当社においては1954年ごろからX線けい光増倍管の研究に着手し,現在では有効視野5インチ,7インチ, 9インチの管球を完成し,医療用,工業用のX線装置のエレクトロニクス化として新分野を開発するに至った。
[2] 原理,構造
X線けい光増倍管の構造は図1のように,真空気密にしたガラスバルブ内の入力けい光面上にX線によるけい光像を形成させて像の明暗に応じた輝度を隣接した光電面により光電流に変換し,光電子を高電圧で加速して電子エネルギーを高めて光電陰極,集束電極,陽極で形成される静電レンズ系により入力けい光面上の像を出力けい光面上に縮少像として集束させて輝度の増強を行なっている。光学的な像の縮少では照度(光束/面積)を変化させることはできても輝度は増さないが,電子光学的に像を縮少すれば輝度の増した像を再生することができる。出力けい光面上の像は拡大鏡を使って肉眼による観察,あるいはイメージオルシコン,ビジコンによりTV両面として観察する。
![]() 図1. X線けい光増倍管の動作原理 Principle of the X-ray image intensifier tube
再生された像の輝度に寄与する因子として入力けい光面の発光特性と光電面の分光感度特性の関連,光電陰極面の光電感度,出力けい光面の発光能率により決まる値をKとし,陽極電圧をV,像の縮少率を1/Mとすると,
輝度増強度は KVM2 となる。
実際には透視用けい光板と入力けい光面を同一条件のX線で照射した時のけい光板と出力けい光面の明るさの比で表わし,東芝X線けい光増倍管ではこの比が東芝透視用けい光板(DFD)の約1, 800〜2,500倍の値となり,きわめて明るい再生像が得られる。
Kの値は入力けい光体,光電面,出力けい光体の種類と製作方法により決まる。入力けい光体はX線の刺激に対する発光能率がすぐれ,光電面の分光感度特性に合ったものが望ましく,その目的に対し硫化亜鉛(ZnS・Ag, JIS B11)を使っている。
光電面は入力けい光体の発光特性に合致し,暗電流により出力再生像の背景輝度が上昇して画面コントラストの低下するのを避けるために,熱電子放射の少ない光電面としてアンチモン---セシウム光電面(Sb-Cs, S11)を選んでいる。
出力けい光体は使用目的により,肉眼による直接観察およびX線映画に対しては視感度特性に合った発生特性を示す硫化亜鉛カドミウム(ZnCdS・Ag, JIS B20), X線TV装置専用に対してはイメージオルシコン,ビジコンの分光感度特性に合った硫化亜鉛(ZnS・Ag,JIS B11)が望ましいことは図2から明らかである。図のようにイメージオルシコン,ビジコンを使用するTV装置用にZnS・Agの出力けい光体を使った場合, ZnCdS・Agのけい光体に対して実効感度比は計算値および実験の結果により約1.5〜3倍になる。
![]() 図2. けい光体の発光特性,撮像管の分光特性 Spectrum distribution for the fluorescent phosphor and characteristics of the image orthicon
縮少された出力像は拡大鏡で原寸法に拡大観察されるために画面の品位を考慮して特に小さい粒度のけい光体を使っており,さらに出力光の光電陰極面への帰還による画面コントラストの低下を防ぎけい光体のセシウムによる汚染防止および出力けい光面の輝度を増加するためにメタルバックを行なっている。
陽極電圧Vは図3のような特性を示し,陽極電圧の上昇に伴い輝度は増加するが,実用上22〜25kVの値を選んでいる。
![]() 図3. 陽極電圧と輝度の関係 Brightness VS. anode voltage in M7018
縮少率Mは光電陰極,集束電極,陽極で構成される静電レンズにより決まり,この値が大きいほど輝度は増加するが逆に出力像の解像力が減少するために8.5〜11.5の値を選んでいる。
管球の解像力は同一線径の重金属線を線径と同一間隔で配置して,線径の異なるものを数種並べたグリッドパターン(図7参照)を規定条件のX線で透視観察したときに出力像上で解像できる最少径のパターンの本数を白黒線を合わせて1本(対)として1cm間の本数で表わしている。
したがって15本対/cmを白黒線をおのおの1本として表現すると30本/cm となる。
X線けい光増倍管による観察において極端にX線量を減少すると,X線量子数のふらつきが画面上にノイズとして現われ,像の識別能および解像力を低下させる原因となるので, X線量はけい光板による透視の場合の数分の1程度で観察するのが望ましい。
[3] 東芝X線けい光増倍管の種類
医療用,工業用の応用分野における種々の被写体の大きさに対して“巻末製品一覧表”にあるように,入力けい光面の有効径によりM7018(5インチ), M7027A(7インチ), M7029(9インチ)の各管種をそろえ, TV装置専用としておのおの出力けい光体の異なるものを開発した。
医療用の分野における手足部の骨などの小さい被写体に対しては5インチの視野で十分であるが,胸部,腹部などの大きい被写体に対しては7インチあるいは9インチの視野が適している。
図4に各管種の外観および同一条件で撮影した胸部写真を対比して示すように, 5インチの視野では一部分だけしか観察できない胸部も9インチの視野ではほとんど全部を同一画面内で観察することができる。
![]() 図4. 東芝X線けい光増倍管の外観と視野 Toshiba X-ray image intensifier and its visual field
[4] 画面の拡大(電子ズーミング)
X線けい光増倍管で病巣あるいは欠陥を透視観察する場合その細部を拡大観察する必要がしばしば生ずる。この目的に対して従来はX線源とけい光増倍管の距離を一定にして被写体をX線源に近づけるか,あるいはX線源と被写体の距離を一定にして,けい光増倍管を被写体から遠ざける必要があり,さらにこの関係位置を変える都度被写体の目的部位を合わせなければならないので,その操作は装置取扱者にとって非常に煩雑である。そのうえ被写体をX線源に近づけた場合はX線管の焦点の大きさによる像のぼけを生じ,けい光増倍管を被写体すなわちX線源から遠ざければX線管の焦点によるぼけの影響は少なくなるが, X線量が減少するために画面は著しく暗くなり,同一の画面の明るさを得るためにはX線量を増さなければならず,その結果X線被ばく量の増加およびX線管の温度を上昇させるなどの欠点を生ずる。
東芝X線けい光増倍管は独特な構造により電子ズーミングを行ない被写体とけい光増倍管の位置を変えずに画面を容易に拡大することができる。
図5のように東芝X線けい光増倍管は集束電極が管球内部でG1,G2に分割してあり,通常の使用状態ではこの集束電極を管球外部で電気的に同電位に接続して集束電圧を与えている。この場合は管球の静電レンズ系と陽極電圧により光電子が流れ出力けい光面上に集束する条件は陽極電圧を一定とすればただ一点だけ存在し,その時の画面の大きさが各管種により規定されている縮少率となり,大きさを変えることはできない。
![]() 図5. ズーミング結線図 Connecting diagram for zooming usage
図5のように集束電極G1, G2のおのおのに独立した集束電圧EC1, EC2を与えるようにしてG2に正電圧を印加すれば,電子ズーミング作用により静電レンズ系の集束点が移動してG1, G2を同電位にしたときに比べ画面を拡大することができ, G2に負電圧を印加すれば逆に画面を縮少することができる。
図6にM7027Aについてのズーミング特性を示す。
![]() 図6. M7027Aズーミング特性 Characteristics of zooming with M7027A
図においてG2 0Vが通常の使用状態で, +4,000Vの電圧を印加してズーミングを行なえば縮少率は1/10.6から1/7.8,すなわち拡大率1.36となり被写体あるいはけい光増倍管の位直を変えずに画面を拡大することができる。図から明らかなように画面の拡大により解像力も増すが,輝度は逆に減少する。G2に負電圧を印加すれば画面は縮少し,輝度は増加するが解像力は低下する。X線けい光増倍管の入力けい光面はX線に対する発光能率を良くするために,けい光体層を厚くしてあるので入力けい光面上の解像力は約20〜30本対/cmが限界である。出力けい光面は入力けい光面上の像を縮少しているために特に小さい粒子のけい光体を使っても,けい光面の粒状性の影響により解像力は約18〜20本対/cm (実際のけい光面上では180〜200本対/cm)が限界となっているが,ズーミングにより画面を拡大すれば粒状性に伴う解像力低下の影響が少なくなり,細部を容易にかつ適確に観察することができる。この電子ズーミングは+5,000V以上では拡大率が飽和する傾向があり,輝度も著しく低下するために画面が暗くなるので,拡大率1.3〜2倍の範囲で使用するのが望ましい。
図7にM7027Aによるズーミングの写真を示す。写真の円形は入力けい光面の範囲を示すために入力けい光面の前面ガラスバルブに密着させた円形ワイヤパターンの陰影で,ワイヤパターンの前に解像力測定用グリッドパターンを装着して,各関係位置を変えずにEC2を変化してズーミングを行なっており,写真からあきらかなように画面の拡大に伴う解像力の向上が認められる。
![]() 図7. ズーミングによる画面 Zooming picture obtained with M7027A
M7018, M7029の管種についても同様なズーミングが可能で,このように集束電極G1, G2に管球外部から電圧を印加して電子ズーミングが行なえることは東芝X線けい光増倍管の特長である。
[5] X線けい光増倍管の応用
けい光板による各種のX線検査におけるX線像の輝度の向上と,これに伴う細部識別能の改善,およびX線被ばく量の低減を可能にしたX線けい光増倍管は多くの分野に応用されるが,大別すると医療用として診断装置に,工業用として透視検査装置に使われる。
診断用としては直接撮影写真に比べれば画質は劣るが診断の迅速性のために胸部診断に,また気管支,心臓,血管,食道,胃腸などの造影剤による内臓の連続的な運動状態の観察に使われて診断能力を一段と向上させることができる。また骨折などに対しては欠損部分の内部状態を監視しながら整形手術することができる。
工業用の透視検査としては,金属外囲器内部の構造,溶接箇所の内部欠陥などの観察,鋳造時の湯流れ状態やベルトコンベヤによる量産製品などの連続運動状態の観察検査に使われる。
これらの応用分野におけるX線像の観察には肉眼による直接観察,録画, X線TV方式が考えられる。
直接観察では明るい部屋で透視が行なえるため暗順応の必要がなく,反射鏡,拡大鏡の組合せにより観察者は直接X線の被ばくを容易に避けることができる。録画に対しては間接撮影と同様に画面を直接に撮影したり,運動状態の被写体にはシネカメラによるX線映画を撮影し,画面を再生して多くの観察者に供することができる。
X線TV方式としてはイメージオルシコン,ビジコンと組合せて画面の輝度およびコントラストを任意に選んだり,観察者をX線被ばくより隔離する遠隔操作によりX線被はくを全く受けずに大きな画面として観察を容易にかつ多くの観察者が同時に観察したり,またマイクロ波による無線中継を行なえば,遠隔地における観察も可能となる。この方式においてもシネカメラあるいはビデオテープによる運動状態のX線映画を記録することができ,また蓄積管により運動状態の画面の一部を録画再生することもできる。
このようにX線けい光増倍管の開発によりX線けい光像の輝度が改善されてその応用分野が開発されつつあり, X線被ばく量の低減の面からも今後さらに普及するものと思われる。
文献
(1)M.C.Teves : The Apprication of the X-ray Image lntensifier, Philips Tech. Rev., 17, 3 (1955)
(2)小川一郎, 他3名 : X線けい光増倍管とその応用,東芝レビュー12, 12 (1957)
(3)荒木庸夫, 他4名 : 工業用テレビ透視装置, 東芝レビュー17, 1 (1962)
<1> 電子管技術部 *Tube Engineering Dept., Tokyo Shibaura Electric Co., Ltd. |