Vol.42 No.2 (1987)
UDC 616-073.75-71:(621.383.81:621.397.62)

X線テレビ透視撮影装置 Wシリーズ
X-Ray-TV Diagnostic Tables, W Series

増沢 幸和(1) 中村 仁(1) 久保 明(1)
Yukikazu Masuzawa*
Hitoshi Nakamura* Akira Kubo*


X線による診断の高画質化,多様化が進み,それに伴って診断装置も高度な要素技術が必要とされている。
今回, X線テレビ透視撮影装置の新製品Wシリーズを開発した。 このシリーズでは,患部を透過したX線像を光像に変換し,モニタで見る透視像とX線フイルムに直接写す撮影像とのシステムの画質向上のほか,操作性と信頼性との向上のため,種々の新要素技術を開発した。 例えば,システムの画質に適したWシリーズ増感紙,およびスーパ・メタルI.I.(Image Intensifier)による診断効率の向上と高画質化などによる診断能の向上とを実現した。これらの改善により, WシリーズX線テレビ透視撮影装置は高精度な診断情報を提供している。
In compliance with the marked progress of X-ray diagnostic techniques in the medical world, the field of diagnostic apparatus has come to demand the incorporation of state-of-the-art technology.
The TV fluoroscopic system, W series, newly developed by Toshiba, has emphasis laid on (1) improving the qualities of fluoroscopic as well as radiographic images on the basis of parameter analysis, and (2) improving the operability and reliability for wider clinical scope.
For the former, new materials and components are incorporated, including specific intensifier screens based on systematic analysis and a supermetal image intensifier which offers higher clinical efficiency and image quality.

1 まえがき

消化管系疾患に対する検査法には, X線検査,内視鏡検査,細胞診などがあるが,多くの患者に対する一次的な検査法としてもっとも能率的で有効なのはX線検査であろう。X線検査は,イメージインテンシファイア(以下I.I.と略称する)とテレビジョンの組合せにより著しい発展を経てきた。 消化管疾患,特に胃の疾患に対するX線検査法は,陽性造影剤であるバリウムと陰性造影剤である空気を同時に胃の中に入れて撮影する二重造影法の普及などによって,微細な病変も診断できるようになった。 X線テレビ透視撮影装置(以下X線テレビ装置と略称する)は,胃の中にバリウムを入れた後,空気を注入して胃をふくらませ,体位変換を行ってバリウムを胃の内壁に薄い層として付着させて,粘膜面の微細な凹凸と辺縁の状態を明暗の差としてはっきり出し,I.I.とテレビジョンによる透視像で観察し, X線フイルムに記録することを容易にするものである。
当社は,昭和44年にジャイロ式万能X線テレビ装置(1),46年にフィルム装てんを自動化したカセッテレス式X線テレビ装置(2), 56年には,診断能を大幅に向上させたVシリーズX線テレビ装置(3)と常に新製品を開発し, X線診断の向上に大きく貢献し,国内シェア1位を確保してきた。
今回は,画像性能の向上,操作性の向上,高信頼化などの診断能の向上を目的として開発したWシリーズX線テレビ装置について述ベる。


図1.X線テレビ透視撮影装置DTW-30A形  透視撮影および断層撮影が可能な汎用多目的高級形装置である。
X-ray-TV diagnostic table, Model DTW-30A


2 X線テレビ装置の概要

図1に消化管系の精密診断をはじめ,断層撮影診断など汎用多目的に使用するオーバテーブルチューブ方式X線テレビ装置DTW-30Aの外観を示す。
この装置の画質に及ぼす影響を要因別に分けると図2のようになる。操作者は,図3のようにテレビモニタ像で患部を見ながら(透視像),診断部位がより鮮明に見えるように装置を操作する。次に診断の必要に応じて,フィルムを装てんした密着板(フィルムの両面を増感紙で密着したもの)を撮影位置に移動し,フイルムに記録する(直接撮影)。以上の基本動作を行うX線テレビ装置において,診断能の高い透視像と撮影像を得るために種々の改良を行った。


図2.X線テレビ装置の基本構成  X線管球から被検者,被検者から受像系までを要因別に大別して検討する。
Basic construction of X-ray-TV diagnostic table


図3.X線テレビ装置の基本システム  I.I.とテレビジョンによる透視像を見ながら、必要部位をX線フイルムに撮影し,記録する。
Basic system of X-ray-TV diagnostic table

3 高診断能のための設計事項

精度高くかつ診断領域の広い透視像およびX線写真を得るために,画像の物理評価項目のうち,特に次の点に注力した。
(1)システム感度の向上 撮影時間を短縮し,患部の動きによるぼけがないようにする。
(2)解像特性の向上 高コントラストの被写体をより鮮明に見えるようにする。
(3)コントラスト分解能の向上 低コントラストの被写体をより鮮明に見えるようにする。
これらを実現するために, "X線管球と映像受像系間に介在する物体によるX線吸収とX線散乱を必要最少限にする", "高電圧発生装置, X線管球などのシステムに適合したグリッド,増感紙を設定する","増感紙とフイルムの密着性能を向上させる","映像受像系すなわち増感紙およびI.I.の画質性能を向上させる"などに着目して,次に述べる新要素技術および新機構を開発し,製品化した。
3.1 X線管球の開発
X線管球から被検査者までに介在する物体のアルミニウム当量は, X線防護上ある値以上が必要とされており,これを法律で総ろ過値として規定されている。この値を必要最少限にすることは, X線吸収およびX線散乱の発生を少なくするうえで,重要なことであったが, X線管球のアルミニウム当量の変動により困難となっていた。今回,当社で開発したZFシリーズX線管球は,この変動を極力少なくしたものである。 これにより,従来のX線管球を組み合わせたシステムに比べ, X線の散乱量を最大約10 %低減することができた。
3.2 天板の開発
従来からオーバテーブル方式X線テレビ装置では,被検者透過後のX線吸収とX線散乱を少なくするために,カーボンファイバ製天板を一部採用していたが,今回カーボンファイバと発泡性樹脂材料との積層適正化を行い,カーボンファイバ材料の削減を行った。 これにより従来に対し,機械的強度は同等のまま, X線吸収の点で約8%, X線散乱の点で約10%改善できた。
3.3 グリッドの改善
被検者透過時に発生する散乱X線を除去する目的のX線グリッドにおいて,鉛はくと中間物質(アルミニウムあるいは木)の保護を目的とする被覆部(カバー)でのX線吸収とX線散乱が問題となっていたが,カバー部に合成繊維材を用いた新形X線グリッドを開発した。これにより,従来のX線グリッドに比べ, X線吸収の点で約5%, X線散乱の点で約5%改善できた。
3.4 密着方式の開発
診断効率の向上と透視の被ばく線量の低減により,サイクルタイム(フイルム交換時間)の短縮が必要となり,フイルムと増感紙を短時間でかつ確実に密着するために,密着圧力がフイルム中心部から周辺へすぐに伝達され,空気の残留がない密着方式を開発した。 図4に,新密着方式の密着板の外観を示す。 これにより,従来の密着板に対し,密着時間を約30%短縮できた。


図4.新密着板FH-30B  密着性が1ランク向上し,密着に要する時間は従来より約30%短縮できた。
New film holder, Model FH-30B

3.5 増感紙の開発
最近の"高画質オルソフイルム(コダックTMG,サクラMG,フジHRなど)への対応"や"組合せ高電圧発生装置と組合せX線管球への対応"などを考慮したシステムの画質を実現するため,新たに当社でWシリーズ増感紙を開発した。 これにより,ユーザの現像機に合わせてX線写真の感度,鮮鋭度,粒状性などをユーザの要望に合わせることが可能となった。 例えばオーバテーブル方式X線テレビ装置の普及システムでは,従来と比較し鮮鋭度,粒状性はそのままで,感度特性を20%向上させることができた。 このシリーズの増感紙の特性例を図5,図6に示す(4)


図5.Wシリーズ増感紙の特性(I)  感度はそのままで高鮮鋭度化したタイプと,鮮鋭度はそのままで高感度化したタイプがある。
Relative speed and relative sharpness



図6. Wシリーズ増感紙の特性(II)  粒状特性は同等で,感度を大幅に向上させた。
Relative speed and RMS granularity

3.6 I.I.の開発
55年に当社で開発したメタルI.I.は,それ以前のガラスI.I.と比べ,高コントラスト,高解像の透視画像を提供してきたが,さらに図7のように入力および出力スクリーンのミクロ構造を新LG (ライトガイド) -Csl膜の厚膜化などでX線の利用効率の向上および高画質化を図ったスーパ・メタルI.I.を開発した。


図7. スーパ・メタルI.I.の構造  入出力面を新ライトガイド方式によりCsI膜を厚膜化し利用効率の向上と高画質化を図った。
Constitution of Super metal I.I.

表1の諸特性をもつスーパ・メタルI.I.の主な特長は, (1)量子ノイズの低減, (2)微小コントラスト被写体の 識別能の向上, (3)被ばく線量の低減である(5)

表1. スーパ・メタルI.I.の特性
Characteristics of Super metal I.I.
No. 項目 スーパ・メタルI.I. 従来のメタルI.I.
1 X線吸収率(入力スクリーン) 70% 50%
2 量子検出効率(QDE) 75% 60%
3 10%コントラスト 20:1 15:1
4 変換効率(Gx)
270 Cd/m2
mR/s
200 Cd/m2
mR/s
5 解像力 40lp/cm 40lp/cm

アクリル坂上に穴径と穴の深さを階段状に変えたバーガーファントムを用いて測定したI.I.入射線量率とコントラスト分解能のデータを図8に示す。この図からコントラスト分解能が同一であれば,被ばく線量が低減される。また,被ばく線量が同一であれば,コントラスト分解能の向上ができることがわかる。


図8. バーガーファントム評価  被ばく線量の低減とコントラスト分解能の向上により,低コントラストの患部像も鮮明に見えるようになった。
Valuation for Burger's phantom

以上の主な改善により,例えば高級形オーバテーブル方式X線テレビ装置システムでは,図9のように透視系および直接撮影系の前述評価項目のすべてにおいて,従来システムに比べ10%以上の向上が実現できた。


図9. システム画質比較結果(I)  直接撮影系,透視系で,すべて10%以上の改善が実現できた。
Improvement of systematic image quality

また,普及形オーバテーブル方式X線テレビ装置システムでは,図10のように前例同様,従来システムに比べ10%以上の向上ができた。
特に,直接撮影系の感度については,約50%向上させ,動態ぶれによる画質低下を大幅に改善することができた。


図10. システム画質比較結果(II)  動態ぶれによる画質低下を大幅に善すると同時に,分解能などを10%以上向上させた。
Improvement of systematic image quality

4 あとがき
これまで,Wシリーズとして,DTW-30A, DBW-30A, DGW-10Aをはじめとしたオーバテーブル方式X線テレビ装置をシリーズ化してきたが,引き続きこれらの設計思想をベースに,アンダーテーブル方式X線テレビ装置などの開発に取り組む予定である。

文献

(1) 黒川利雄,ほか:回転多方向撮影X線テレビ装置の概要と臨床的応用,  日本医学放射線学会誌,34, 11, pp.788〜800 (1974)
(2) 昭和47年の技術成果, 東芝レビュー, 28, 3, pp.327〜330 (昭48)
(3) 増沢幸叫,ほか:遠隔式X線テレビ透視撮影台Vシリーズ,東芝レビュー,37, 8, pp.695〜700(昭57)
(4) 材料技術ノート, X線テレビ装置専用増感紙Wシリーズ,東芝レビュー,41, 9, pp.821〜822(昭61)
(5) 久保 宏,ほか: 9吋スーパ・メタルI.I.の開発,日本放射線技術学会総会予稿集, 1986-4東京, p.670 (1986)


(1)那須工場 放射線技術部   * Nasu Works