Vol.35 No.9 (1980)
UDC 621.397.13-519:621.386:616-073.75

シートフイルムスポットショット装置を搭載した近接X線透視撮影台DT-GCS形
Radiographic/Fluoroscopic Table with Cassetteless Spot Filming Device, DT-GCS

石崎 憲孝<1>     藤原 茂美<1>     小合 佳正<1>
Noritaka Ishizaki*     Shigemi Fujiwara*     Yoshimasa Ogo*


消化管系の精密検査は,医師が患者のそばで触診を加え,患者の体位変換や微妙な位置決め操作を繰り返しながら患者の病巣を的確にX線写真にとらえることができなければならない。このため装置は近接式で操作性に優れ,良いX線写真が撮れて,しかも能率の高いものが求められている。このような要望にこたえるためにシートフイルムスポットショット装置を搭載して高能率化を図り,しかも画質,X線防護,操作性の観点で一歩進んだ新しい近接透視撮影台を開発した。スポットショット装置は50枚のフィルムを連続して供給でき,しかも大幅に小形・軽量化されている。

Radiographic/fluoroscopic tables are now required to be raised further in accuracy of X-ray examination for digestive organs, Under such circumstances,investigation has been made of the table and the spot filming device in order to raise their utility in digestive examination.On the basis of the result of investlgation,an R/F table combined with a cassetteless spot filming device has been developed.The spot filmlng device,made extremely small and light,is able to feed fifty sheets of film continuously.
Key words 
Biomedical measurement, Medical equipment, X ray apparatus, Radiography, Diagnosis, Digestive system, Tables (furniture).Radiographic film, Holders, Safety.Miniaturization


1 ま え が き

消化管系のX線診断はX線装置の進歩,撮影技術の進歩により,わずか数mmの早期ガンを発見できるほど高精度になっている。X線装置としては,1950年代の回転陽極X線管の実用化,1960年代のX線テレビジョンの出現,1970年代のシートフイルムスポットショット装置の開発など高機能化が進んできた。特にX線テレビジョンとシートフィルムスポットショット装置の普及はX線検査形態を大きく変えた。X線テレビジョンは室を暗くして見る従来のけい光板に置き換わり,シートフィルムスポットショット装置はカセッテの交換や,1枚ごとのフィルムのつめ替え作業を不要にした。
このように高機能,高能率になるに従って,装置は大形になり従来の近接操作から遠隔操作へと移行してきた。しかし,消化管系のX線検査は,病変をいかに忠実に描出し診断に結びつけるかが最終目的である。特に精密検査においては,患者への触診,体位変換の補助,微妙な位置決めや圧迫操作が不可欠であり近接操作にならざるを得ない。そのため高能率で精密検査のできる装置すなわち,シートフィルムスポットショット装置を搭載した,操作性の良いしかも鮮鋭な写真の撮れる近接透視撮影台が強く求められてきた。
ここでは,新しく開発したシートフイルムスポットショット装置を搭載した近接透視撮影台(図1)の技術的問題を概説する。


図1.シートフィルムスポットショット装置を搭載した近接透視撮影台 DT-GCS形
Radiographic/fluoroscopic table with cassetteless spot filming device,Model DT-GCS


2 近接透視撮影台の技術的背景

2.1 X線写真の画質向上
近接透視撮影台に要求される性能は,まず良いX線写真が撮れることである。X線写真の鮮鋭度に影響する多くの因子のうちでX線管焦点の大きさによる幾何学的ぼけ(不鋭)は,X線管焦点を小さくすることと像の拡大率を小さくすることにより改善できる(図2)。拡大率はX線管焦点からフィルムまでの距離と,X線焦点から天板とスポット装置の間に入る被写休までの距離の比であり,X線管焦点〜天板間距離(Focus Tabletop Distance;以下FTDと略す)を大きく,スポット前面〜フィルム間距離を小さくすることにより拡大率を小さくすることができる。


図2. X線撮影系
Radiography system

この考え方により幾何学的ぼけを改善したものに当社製近接透視撮影台DT-KBT形がある(1)。この装置はFTD62cm,スポット前面〜フィルム間距離1.35cmである。通常の装置のFTDは40〜46cm,スポット前面〜フィルム間距離1.7〜4.Ocmであり,これに比べて極めて低拡大率となっている。
X線写真の評価はMTF(Modulation Transfer Function)による解析がなされている(2)
H(ω) = exp {-2π2(f/3)2(b/(a+b))2ω2} * (sin(πvtω)/πvtω)   (1)

ここで,H(w):MTF, f:焦点の大きさ, w:空間周波数, v:被写体運動速度, t:ばく射時間, a:X線管焦点〜被写体患部間距離, b:被写体患部〜フィルム間距離 である。
(1)式で示すように焦点の大きさと拡大率を小さくすることによりMTFは良くなる。しかし,一方では焦点を小さくするとX線管の許容最大入力は著しく低下する(4)。また,拡大率を改善するためにFTDを大きくすると,X線強度は,距離の二乗に反比例するため,X線管焦点とあいまって露光線量が不足することになる。例えば被写体となる胃の運動で最も普通に見られる速度は5mm/s前後であり,ばく射時間を0.2〜0.3sと長くすると運動による像のぼけが大きくなり(3),露光線量不足をばく射時間で補うことは困難である。このような幾何学的ぼけを改善するために,近接透視撮影台に組み合わせるX線管も,小焦点で短時間ばく射できる高速回転陽極X線管へと移行している。

2.2 被ばく線量の低減
近接操作式においては被検者だけでなく術者をも含めた被ばく線量の低減を考慮しなければならない。被ばく線量に関しては法的規制が行われており,中でも1974年に施行された米国のDHEW規格は最も権威ある規格の−つである。この規格では,被検者の被ばく防護に対しては照射野制限と線質を規定し,術者の被ばく防護に対してはろうえい線量や一次防護壁を規定している。当社はDHEW規格に適合する近接透視撮影台を製品化している(5)
被検者の被ばく防護の基本的な考え方は,被検者には生体に影響を及ぼしフィルムを黒化させるのには寄与しない軟X線を除去したX線を照射し,被検者を通過して診断情報を含んだX線はできるだけ途中で吸収されることなしにフィルムに到達させることと,フィルムのない部分には余分の照射をしないことである。そのため紋り装置のフィルタや,寝台の天板,天板裏カバーなどは適度にX線を吸収するものが良く,その反面スポットショット装置前面カバーや,フィルムを保持している密着板にはできるだけ低吸収の材料,例えばカーボンファイバなどを選定しなければならない。

2.3 操作性と高能率化
近接透視撮影台に要求される機能は位置決めの手段として天板がスライドするだけでなく,スポットショット装置が上下(患者体軸方向),左右,前後(患者圧迫方向)に移動でき,しかも手動で軽快に動くことである。上下,前後方向に手動で移動するためには,起倒動作により重力方向が変化するので,それぞれウェイトによる完全バランスが必要である。
そのためスポットショット装置にはより軽いものが要求される。また操作性の向上のためによりコンパクトなものが要求される。これが従来近接透視撮影台には一枚撮りのカセッテスポットショット装置がついていて,高能率なシートフィルムスポットショット装置を組み合わせることができなかった最大の理由である。
これを解決するためにはシートフィルムスポットショット装置の思い切った軽量化とコンパクト化が必要である。重量のあるX線管とスポットショット装置さらにはイメージインテンシファイアを保持して軽快に動かすために,走行方式やパワアシスト方式の工夫が必要である。これらの改良により操作性の良い,高能率の近接透視撮影台が実現する。
以上述べた三つの技術的問題点はそれぞれ関連があり,そのおのおの要求される性能をいかにバランス良くまとめるかということが重要な課題となる。

3 近接カセッテレス透視撮影台DT-GCS形の特長

近接カセッテレス透視撮影台DT-GCS形の概略仕様を表1に示す。

表1. 近接透視撮影台 DT-GCS形の仕様
Specifications for radiographic/fluoroscopic table.Model DT-GCS
 起倒  90°/20s  +90°〜-90°
 スポット上下ストローク  820mm  逆傾時650mm
 スポット左右ストローク  ±130mm
 スポット前後ストローク  310mm
 床〜スポットセンター  1,750mm
 天板上下ストローク  水平  +1,000〜-500mm
 30°  +500〜-500mm
 立位  +500〜-130mm
 天板左右ストローク  +90mm
 天板高さ  870mm
 天板〜焦点  570mm
 拡大率  1.0857
 フィルムサイズ
 10in×12in(四つ切)
 フィードマガジン  50枚
 テイクアップマガジン  50枚
 分割
 連写  たて2分割時可
 マガジン挿入方向  後ろ
 天井つり  不要
 前面〜フィルム間距離  10mm

3.1 寝台部の特長
3.1.1 せり上り式起倒方式 消化管系の診断においては臓器の 形状をX線写真に撮るために生体よりもX線吸収の大きな造影剤を使用するが,造影剤を生体内で移動させるために患者を起こしたり倒したりしなければならない。この動きを起倒と呼んでいる。この装置の起倒動作を図3に示す。単なる回転だけでなく,角度により回転中心をずらす方式を採用している。そのため起倒動作により術者が移動しなければならない距離は他の方式と比べると短くてよい。


図3. DT-GCSの起倒動作(水平位〜立位)
Tilting motion of DT-GCS(horizontal〜Vertical)

3.1.2 撮影可能範囲の拡大  一般に近接透視撮影台は天板だけでなくスポットショット装置も上下左右に移動できるので,スポットショット装置固定の遠隔式と比較すると撮影可能範囲が広い(図4)。透視撮影台は起倒動作をするので図3からも分かるように,床との干渉のため天板スライド可能範囲は起倒角度により変化する。したがって,撮影可能範囲も起倒角度によって変化する。図4のように近接カセッテレス透視撮影台の撮影可能範囲は広い。診断上不要と思われる範囲では撮影することはなく,このことはスポットショット装置の自由度が大きくとれるということであり,術者は自分の操作のしやすい位置で検査ができる。


図4. 撮影中心移動範囲(撮影可能範囲)
Movable range of radiographic center

3.1.3 拡大率と天板高さ  2.1で述べたように画質を向上するために透視撮影台側でできることは,拡大率を小さくする,すなわち天板をX線管から離してフィルムを患者に近付けることである。天板とX線管を離すとX線管と床との干渉のため天板高さが高くなり,患者を乗せるときやスポットショット装置の操作時に不便となる。特にスポットショット装置とX線管を上下できる近接透視撮影台ではよりきびしい。図5に拡大率一天板高さの他装置との比較を,図6には拡大率−撮影可能面積の比較を示した。この近接カセッテレス透視撮影台DT-GCS形は低拡大率にもかかわらず天板高さが低く,撮影可能範囲の大きい,高操作性の透視撮影台といえる。


図5. 拡大率−天板高さ比較
Relation of magnification factor and tabletop height

図6. 拡大率−撮影中心移動面積比較
Relation of magnification factor and movable range of radiographic center

3.1.4 操作性の向上  スポットショット装置上下方向の動きは手動だけでなくクラッチの切換えにより,術者がスポットを押す力をモータで補助するためのパワアシスト機構を使用することができる。9in.イメージチェインを補助つりなしで直付であるにもかかわらずスポットショット装置の上下,左右,前後方向の移動が軽快にできる。

3.1.5 安全性の向上 この装置は,起倒,天板スライド,スポットショット装置の移動などの移動範囲が広いので,床との干渉や床との間に足などをはさむなどの心配が起こるが,すべての動きを検出して床とのすき間を十分にとるように,あるいは患者乗降用の踏台が未収納のときには起倒動作しないなどのようにインタロック制御をして安全性を高めている。特に操作位置付近では万一術者が起倒時に足をはさまれても自動的に停止するよう接触安全スイッチを設けるなど近接操作における安全性も考慮されている。

3.2 シートフイルムスポットショット装置の特長
新しく開発した近接用シートフィルムスポットショット装置(以下シートスポットと呼ぶ。図7)の最も大きな特長は大幅な軽量化とコンパクト化である。図8に新シートスポットと従来タイプの外形比較を示す。表2に各種の従来スポットの寸法および重量比較を示す。


図7. シートフィルムスポットショット装置
Cassetteless spot filming device


図8. シートフィルムスポットショット装置の外形比較
Comparison of configuration

表2. 各種スポットショット装置の外形,重量比較
Comparison of outline dimensions and weight
   近接シートスポット  遠隔シートスポット
(鉄製)
 遠隔シートスポット
(アルミ製)
 近接カセッテスポット
 本体重量(kg)  48  220  95  47
 本体寸法  厚さ(cm)  17.5  28  27  15
 幅(cm)  50  67.5  62  49.5
 長さ(cm)  95.5  142  145  109
 スポット前面〜
フィルム間距離(cm)
 1  1.3  1.2  1.8
 フィルムケース重量(kg)  1.3  4.3  4.3  1.2(四つ切カセッテ)
 フィルムケース寸法  厚さ(cm)  2  3.4  3.4  1.4
 幅(cm)  32.4  33  32  33.2
 長さ(cm)  27  32.6  32.6  28.1

従来タイプのうちでも主要フレームか鉄板製のものとアルミ合金製のものでは,外形寸法は同じでもアルミ合金製の重量は鉄板製の約1/2となる。そのアルミ合金製のまた1/2の重量にしたのが今回開発したシートスポットである。シートスポットの全体の寸法を大幅にコンパクト化しなければ,これだけの軽量化は実現しない。例えばシートスポットの幅を小さくすれば,X線防護のための鉛板を小さくすることができ,それらを支えるフレームも軽くできる。
以下コンパクト化のために実施した方法に関して述べる。

3.2.1 フイルムホルダ駆動部の改良  従来のシートスポットの幅を決定する因子は,四つ切フィルムを分割撮影するためのスペースと,それに加えてフィルムホルダ駆動のためのスペースであった。今回はフィルムホルダ駆動をスポット側面ではなく後面側に移したことにより,分割のためのスペースだけの幅寸法にすることができた。

3.2.2 分割方式の改良  従来の分割方法は,撮影位置への飛込み用ガイドと,上下分割撮影のためのガイドを別々に持っており,フィルムが透視位置にあるときに上下分割位置へ移動するような機構であった。図9,図10に示すようにフレキシブルガイドレールを使用して,フィルムが撮影位置に飛び込むとき,同時に上下分割設定ができるような機構を採用した。


図9. シートフィルムスポット装置平面図
Plane view of cassetteless spot filming device


図10. シートフィルムスポットショット装置側面図
Sectional view of cassetteless spot filming device

これによって,従来マガジン部とフィルムホルダの透視位置との間にあった上下分割駆動部を操作箱の後ろに移すことができた。これに加えて,従来のリンク機構によるフィルム搬送に換えてカム機構を採用して長さ方向のスペースを改善した。この2点によりシートスポットの長さをカセッテスポット並に,短くすることができた。

3.2.3 飛込み動作の改良  今回採用したフレキシブルガイドは,装置をコンパクトにしただけでなく,今までにない新しい機能をもつけ加えた。透視位置から撮影位置へ飛込むとき,同時に上下分割できるため,従来よりも飛込み時間が少ない。また,どの位置でも上下分割方向に移動できるので連続して次の分割撮影に移る連写機能を持っている。この機能は造影剤の流れ込むタイミングをねらうために連続して撮影をする食道検査時に効果を発揮すると思われる。

3.2.4 スポット前面とフイルム間距離の減少  スポット前面−フィルム問距離は拡大率に影響する。先に述べたようにフィルムホルダ駆動部をすべて後面側に移したことと密着板構造の改良により,従来にない10mmという値にすることができた。

3.2.5 X線防護  密着板とスポット前面カバー材料に極低吸収のカーボンファイバを採用し,画質的にも患者のX線防護的にも改善されている。

3.2.6 フィルムケースの小形化  シートスポット本体のコンパクト化によってフィルムケースも改良され小形になり,ケースのシャッタはそう入時に自動的に開閉するワンタッチ式となっている。

4 あ と が き

被ばく線量については法的に明確な評価規準が確立しており,X線写真の画質に関しては,MTFによる評価方法が定着してきている。しかし操作性に関する定量的な評価手段は現在のところ確立されていない。今後は診断技術だけでなく実際の診断においての使用方法を地道に解析評価していく努力が必要であろう。
試作機の操作性について,慶応大学 熊倉賢二先生,東京女子医科大学消化器病センター 小田明義先生から多くのご指導をいただいたことを深く感謝する。

文    献

(1)熊倉賢二,他:X線装置からみたX線診断装置の限界,胃と腸 14,1 (1979)
(2)幾瀬純−,他:X線シネ造影像の画質解析,東芝レビュー,34,2,pp. 103〜107(昭54-2)
(3)平吹良介,他:高速回転オーバーチューブ型X線TV装置に於ける胃スクリーニングの検討,日本放射線技術学会総会,29,24,(1973)
(4)青柳泰司:診断用X線装置 pp.86〜102,(1979)
(5)Y.Nakajima,et al.:Diagnostic X-Ray System Compatible with DHEW Standards,Toshiba Review,110 JUL-AUG(1977)


<1>医用機器放射線技術部  *Radiation Equipment Engineering Dept.